JavaScriptのクラス構文について、基本的な書き方から実践的な活用方法まで網羅的に解説します。class定義、constructor、メソッド、静的メソッド、フィールド宣言といった基礎文法に加え、継承(extends)、ゲッター/セッター、プライベート要素の実装方法を学べます。ES6で導入されたclass構文の特徴や、従来の記法との違いも理解でき、オブジェクト指向プログラミングの実装に必要な知識が身につきます。
目次
JavaScriptのクラスとは何か

JavaScriptのクラスは、ES6(ECMAScript 2015)で導入された、オブジェクト指向プログラミングを実現するための機能です。複数のオブジェクトを効率的に生成し、それらに共通の振る舞いやデータ構造を持たせることができます。クラスを使うことで、コードの再利用性を高め、保守性の高いプログラムを書くことが可能になります。
従来のJavaScriptではプロトタイプベースのオブジェクト指向が採用されていましたが、クラス構文の導入により、他のプログラミング言語経験者にもわかりやすい形でオブジェクト指向プログラミングが記述できるようになりました。これにより、チーム開発での可読性が向上し、複雑なアプリケーション開発が容易になっています。
クラスの特徴と役割
JavaScriptのクラスには、いくつかの重要な特徴と役割があります。まず第一に、クラスはオブジェクトの設計図として機能します。同じ構造を持つ複数のオブジェクト(インスタンス)を作成する際、クラスを定義しておくことで一貫性のあるオブジェクト生成が可能になります。
クラスの主な特徴として、以下の点が挙げられます:
- カプセル化:関連するデータ(プロパティ)と処理(メソッド)を一つの単位にまとめることができます
- 再利用性:一度定義したクラスは何度でもインスタンス化して利用できます
- 継承のサポート:既存のクラスを基に新しいクラスを作成し、機能を拡張できます
- 構造化:コードを論理的に整理し、大規模なアプリケーションの管理を容易にします
クラスの役割は、単にオブジェクトを作成することだけにとどまりません。ビジネスロジックを抽象化し、現実世界の概念をコードで表現するという重要な役割を担っています。例えば、「ユーザー」「商品」「注文」といった概念をクラスとして定義することで、プログラムの意図が明確になり、保守や拡張が容易になります。
クラスでできること
JavaScriptのクラスを使うことで、多様なプログラミングパターンと機能を実装できます。クラスは単なるデータの入れ物ではなく、動的な振る舞いを持つオブジェクトを生成するための強力な仕組みです。
クラスで実現できる主な機能は以下の通りです:
- オブジェクトの生成と初期化:コンストラクターを使って、インスタンス作成時に初期値を設定できます
- メソッドの定義:オブジェクトの振る舞いを関数として定義し、データを操作できます
- データの保護:プライベートフィールドを使って、外部からのアクセスを制限できます
- 静的メンバーの定義:インスタンスを作成せずにクラス自体から呼び出せる機能を実装できます
- ゲッター・セッターの実装:プロパティへのアクセスを制御し、データの整合性を保てます
- クラスの拡張:継承を使って既存のクラスに新しい機能を追加できます
具体的な活用例として、Webアプリケーションでのユーザー管理システム、ゲーム開発におけるキャラクターの管理、データモデルの定義など、幅広い場面でクラスが活用されています。特にReactやVue.jsなどの現代的なフレームワークでも、クラスベースのコンポーネント設計が採用されており、モダンなJavaScript開発において不可欠な知識となっています。
クラスを使うことで、コードの可読性が向上し、バグの混入を防ぎやすくなります。また、チーム開発において共通の設計パターンを共有しやすくなるため、開発効率の向上とコード品質の維持に大きく貢献します。
クラスの基本的な記述方法

JavaScriptでクラスを作成する際には、いくつかの記述方法があります。ここでは、クラスを定義する基本的な構文やコンストラクターの実装方法について詳しく解説します。それぞれの方法には特徴があり、状況に応じて使い分けることで、より柔軟なコード設計が可能になります。
クラス宣言の構文
クラス宣言は、JavaScriptでクラスを定義する最も一般的な方法です。classキーワードを使用し、クラス名に続けて波括弧内にクラスの内容を記述します。
基本的なクラス宣言の構文は以下の通りです。
class ClassName {
// クラスの内容
}
具体的な例として、シンプルな Person クラスを作成してみましょう。
class Person {
constructor(name, age) {
this.name = name;
this.age = age;
}
greet() {
console.log(`こんにちは、${this.name}です。`);
}
}
const person1 = new Person('太郎', 25);
person1.greet(); // こんにちは、太郎です。
クラス宣言は巻き上げ(ホイスティング)されません。これは関数宣言とは異なる重要な特徴です。そのため、クラスを使用する前に必ず宣言しておく必要があります。
// これはエラーになります
const instance = new MyClass(); // ReferenceError
class MyClass {
// クラスの内容
}
また、クラス名は慣習的に大文字で始める(PascalCase)ことが推奨されています。これにより、通常の関数やオブジェクトとの区別が明確になります。
クラス式による定義
クラス式は、変数にクラスを代入する形で定義する方法です。関数式と同様に、名前付きクラス式と無名クラス式の2種類が存在します。
無名クラス式の例は以下の通りです。
const Person = class {
constructor(name) {
this.name = name;
}
introduce() {
console.log(`私は${this.name}です。`);
}
};
const person = new Person('花子');
person.introduce(); // 私は花子です。
名前付きクラス式では、クラスに名前を付けることができます。この名前はクラス内部からのみ参照可能です。
const Person = class PersonClass {
constructor(name) {
this.name = name;
}
getClassName() {
return PersonClass.name; // クラス内部から参照可能
}
};
const person = new Person('次郎');
console.log(person.getClassName()); // PersonClass
console.log(Person.name); // PersonClass
クラス式を使用する主な利点は以下の通りです。
- 条件に応じて異なるクラスを定義できる
- 関数の引数としてクラスを渡すことができる
- 即座に実行可能なクラス(IIFE風)を作成できる
条件分岐でクラスを動的に定義する例を見てみましょう。
const AnimalClass = condition ?
class Dog {
bark() { console.log('ワン!'); }
} :
class Cat {
meow() { console.log('ニャー!'); }
};
const animal = new AnimalClass();
コンストラクターの実装
コンストラクター(constructor)は、クラスのインスタンスが生成される際に自動的に実行される特別なメソッドです。主にインスタンスの初期化処理を行い、プロパティの設定や必要な準備作業を担当します。
コンストラクターの基本的な実装方法は以下の通りです。
class User {
constructor(username, email) {
this.username = username;
this.email = email;
this.createdAt = new Date();
}
}
const user = new User('taro123', 'taro@example.com');
console.log(user.username); // taro123
console.log(user.createdAt); // 現在の日時
コンストラクターは1つのクラスに1つだけ定義できます。複数のコンストラクターを定義しようとするとエラーが発生します。
class Example {
constructor(a) {
this.a = a;
}
constructor(a, b) { // SyntaxError
this.a = a;
this.b = b;
}
}
デフォルト値を使用することで、引数が渡されなかった場合の初期値を設定できます。
class Product {
constructor(name, price = 0, stock = 0) {
this.name = name;
this.price = price;
this.stock = stock;
}
}
const product1 = new Product('商品A', 1000, 50);
const product2 = new Product('商品B'); // price: 0, stock: 0
コンストラクター内でバリデーションを行うことも一般的です。
class Rectangle {
constructor(width, height) {
if (width = 0 || height = 0) {
throw new Error('幅と高さは正の数である必要があります');
}
this.width = width;
this.height = height;
}
getArea() {
return this.width * this.height;
}
}
try {
const rect = new Rectangle(-5, 10); // Error
} catch (error) {
console.error(error.message);
}
コンストラクター内で return 文を使用する場合は注意が必要です。オブジェクトを返すと、そのオブジェクトがインスタンスとして使用されます。プリミティブ値を返した場合は無視され、通常通り this が返されます。
class CustomObject {
constructor(value) {
this.value = value;
// オブジェクトを返すと、それがインスタンスになる
if (value === 'custom') {
return { custom: true };
}
// 何も返さなければ通常通り this が返される
}
}
const obj1 = new CustomObject('normal');
console.log(obj1.value); // 'normal'
const obj2 = new CustomObject('custom');
console.log(obj2.custom); // true
console.log(obj2.value); // undefined
クラス内の要素と機能

JavaScriptのクラスには、オブジェクトの状態を保持するフィールドや、処理を行うメソッドなど、さまざまな要素を定義できます。これらの要素を適切に組み合わせることで、保守性と可読性の高いコードを実現できます。ここでは、クラス内で利用できる主要な要素と機能について、それぞれの特徴と実装方法を詳しく解説していきます。
フィールドの宣言と利用
クラスフィールドは、クラスのインスタンスごとに保持されるデータを定義する機能です。ES2022以降、コンストラクター外でもフィールドを直接宣言できるようになり、クラスの構造が一目で把握しやすくなりました。
フィールドの宣言は、クラス本体の最上部に記述するのが一般的です。初期値を設定することもでき、設定しない場合はundefinedとして扱われます。
class User {
name;
age = 0;
role = 'guest';
constructor(name, age) {
this.name = name;
this.age = age;
}
}
この記述方法により、クラスがどのようなデータを保持するのかが明確になり、開発者はコンストラクターを確認する前にクラスの全体像を把握できます。また、フィールド宣言はインスタンスごとに独立した値を持つため、異なるインスタンス間でデータが混在することはありません。
メソッドの定義方法
メソッドは、クラスに関連する処理を定義する関数です。JavaScriptのクラスでは、従来のfunction構文を使わず、簡潔な記法でメソッドを定義できます。
class Calculator {
value = 0;
add(num) {
this.value += num;
return this;
}
subtract(num) {
this.value -= num;
return this;
}
getResult() {
return this.value;
}
}
メソッド内では、thisキーワードを使ってインスタンス自身のフィールドや他のメソッドにアクセスできます。上記の例では、メソッドがthisを返すことでメソッドチェーンが可能になり、より読みやすいコードを書けるようになっています。
また、アロー関数を使ってメソッドを定義することも可能ですが、その場合はフィールドとして扱われ、各インスタンスが独自の関数コピーを持つことになります。
class Example {
regularMethod() {
// プロトタイプに定義される
}
arrowMethod = () => {
// インスタンスフィールドとして定義される
}
}
静的メソッドと静的フィールド
静的メソッドと静的フィールドは、クラス自体に紐づく要素で、インスタンスを作成せずに直接アクセスできます。staticキーワードを使って定義し、ユーティリティ関数や定数の管理に適しています。
class MathHelper {
static PI = 3.14159;
static E = 2.71828;
static square(x) {
return x * x;
}
static cube(x) {
return x * x * x;
}
static calculateCircleArea(radius) {
return this.PI * this.square(radius);
}
}
// 使用例
console.log(MathHelper.square(5)); // 25
console.log(MathHelper.PI); // 3.14159
console.log(MathHelper.calculateCircleArea(10)); // 314.159
静的メソッド内でのthisは、クラス自体を参照します。そのため、他の静的メンバーにアクセスする際はthisを使用できます。ただし、インスタンスメンバーには直接アクセスできない点に注意が必要です。
静的メンバーは、設定値の管理、ファクトリーメソッドの実装、ヘルパー関数の提供など、さまざまな場面で活用できます。
静的初期化ブロックの活用
静的初期化ブロックは、ES2022で導入された機能で、クラスの静的メンバーを複雑な処理で初期化する際に使用します。staticキーワードに続けて波括弧で囲んだブロックを記述することで、クラスが評価される際に一度だけ実行されます。
class Config {
static apiEndpoint;
static timeout;
static headers;
static {
// 環境変数に基づいた初期化
const env = process.env.NODE_ENV || 'development';
if (env === 'production') {
this.apiEndpoint = 'https://api.example.com';
this.timeout = 5000;
} else {
this.apiEndpoint = 'http://localhost:3000';
this.timeout = 10000;
}
this.headers = {
'Content-Type': 'application/json',
'X-App-Version': '1.0.0'
};
}
}
静的初期化ブロックは複数定義でき、記述順に実行されます。これにより、段階的な初期化処理を明確に記述できます。また、ブロック内では外部のスコープにアクセスできるため、設定ファイルの読み込みや計算処理など、柔軟な初期化が可能です。
class Database {
static connection;
static isInitialized = false;
static {
console.log('データベース設定を初期化中...');
}
static {
try {
this.connection = this.establishConnection();
this.isInitialized = true;
console.log('初期化完了');
} catch (error) {
console.error('初期化失敗:', error);
}
}
static establishConnection() {
// 接続処理
return { status: 'connected' };
}
}
ゲッターとセッターの実装
ゲッターとセッターは、プロパティへのアクセスをメソッドとして制御する機能です。getキーワードとsetキーワードを使って定義し、データの検証やカプセル化を実現できます。
class Temperature {
#celsius = 0;
get celsius() {
return this.#celsius;
}
set celsius(value) {
if (typeof value !== 'number') {
throw new TypeError('数値を指定してください');
}
this.#celsius = value;
}
get fahrenheit() {
return this.#celsius * 9/5 + 32;
}
set fahrenheit(value) {
if (typeof value !== 'number') {
throw new TypeError('数値を指定してください');
}
this.#celsius = (value - 32) * 5/9;
}
}
const temp = new Temperature();
temp.celsius = 25;
console.log(temp.fahrenheit); // 77
temp.fahrenheit = 86;
console.log(temp.celsius); // 30
ゲッターは引数を取らず、セッターは1つの引数を取ります。通常のプロパティと同じ構文でアクセスできるため、利用者側はメソッドであることを意識する必要がありません。
ゲッターとセッターの活用により、以下のような利点が得られます。
- データの妥当性検証を自動化できる
- 内部実装を隠蔽しながら、外部インターフェースを提供できる
- 派生データを動的に計算して返せる
- プロパティへのアクセスをログに記録できる
class Product {
#price = 0;
#taxRate = 0.1;
set price(value) {
if (value 0) {
throw new RangeError('価格は0以上である必要があります');
}
this.#price = value;
}
get price() {
return this.#price;
}
get priceWithTax() {
return Math.floor(this.#price * (1 + this.#taxRate));
}
}
計算されたプロパティ名の使い方
計算されたプロパティ名は、動的にメソッド名やプロパティ名を生成する機能です。角括弧[]で式を囲むことで、実行時に評価された値をプロパティ名として使用できます。
const METHOD_PREFIX = 'get';
const FIELD_NAME = 'data';
class DynamicClass {
[FIELD_NAME] = [];
[METHOD_PREFIX + 'Count']() {
return this[FIELD_NAME].length;
}
[METHOD_PREFIX + 'Items']() {
return this[FIELD_NAME];
}
['add' + FIELD_NAME.charAt(0).toUpperCase() + FIELD_NAME.slice(1)](item) {
this[FIELD_NAME].push(item);
}
}
const instance = new DynamicClass();
instance.addData('item1');
console.log(instance.getCount()); // 1
console.log(instance.getItems()); // ['item1']
計算されたプロパティ名は、ゲッター、セッター、静的メンバーでも使用できます。これにより、規則的な命名パターンを持つAPIや、シンボルを使った特殊なメソッドの実装が可能になります。
const VALIDATOR = Symbol('validator');
const FORMATTER = Symbol('formatter');
class FormField {
#value = '';
[VALIDATOR](value) {
return value.length > 0;
}
[FORMATTER](value) {
return value.trim().toLowerCase();
}
set value(newValue) {
if (this[VALIDATOR](newValue)) {
this.#value = this[FORMATTER](newValue);
}
}
get value() {
return this.#value;
}
}
特にシンボルを計算されたプロパティ名として使用すると、外部から直接アクセスされない内部メソッドを定義できます。これは完全なプライベート化ではありませんが、意図しないアクセスを防ぐ効果があります。
プライベート要素の実装

JavaScriptのクラスでは、外部からのアクセスを制限するプライベート要素を実装することができます。これにより、クラスの内部実装を隠蔽し、オブジェクト指向プログラミングにおけるカプセル化の原則を実現できます。プライベート要素を適切に使用することで、予期しない値の変更を防ぎ、より安全で保守性の高いコードを書くことが可能になります。
プライベートフィールドとメソッドの定義
JavaScriptのクラスにおけるプライベート要素は、名前の前にハッシュ記号(#)を付けることで定義します。この構文はES2022で正式に標準化され、真のプライベート性を持つクラスメンバーを作成できるようになりました。
プライベートフィールドの基本的な記述方法は以下の通りです。
class BankAccount {
#balance = 0; // プライベートフィールド
#accountNumber;
constructor(accountNumber, initialBalance) {
this.#accountNumber = accountNumber;
this.#balance = initialBalance;
}
deposit(amount) {
if (amount > 0) {
this.#balance += amount;
return true;
}
return false;
}
getBalance() {
return this.#balance;
}
}
const account = new BankAccount('123-456', 1000);
console.log(account.getBalance()); // 1000
// console.log(account.#balance); // エラー: プライベートフィールドにアクセスできません
この例では、#balanceと#accountNumberがプライベートフィールドとして定義されています。これらはクラスの外部から直接アクセスすることはできず、クラス内のメソッドを通じてのみ操作可能です。
プライベートメソッドも同様にハッシュ記号を使って定義できます。
class DataProcessor {
#data = [];
// プライベートメソッド
#validateData(item) {
return item !== null && item !== undefined;
}
// プライベートメソッド
#formatData(item) {
return String(item).trim();
}
addData(item) {
if (this.#validateData(item)) {
const formatted = this.#formatData(item);
this.#data.push(formatted);
return true;
}
return false;
}
getData() {
return [...this.#data];
}
}
const processor = new DataProcessor();
processor.addData(' test ');
// processor.#validateData('test'); // エラー: プライベートメソッドにアクセスできません
プライベートメソッドは内部的なロジックを隠蔽するのに適しており、クラスのパブリックなインターフェースをシンプルに保つことができます。
プライベート静的フィールドや静的メソッドも定義可能です。
class Counter {
static #instanceCount = 0;
#id;
constructor() {
this.#id = ++Counter.#instanceCount;
}
static #resetCount() {
Counter.#instanceCount = 0;
}
getId() {
return this.#id;
}
static getInstanceCount() {
return Counter.#instanceCount;
}
}
const c1 = new Counter();
const c2 = new Counter();
console.log(Counter.getInstanceCount()); // 2
プライベートフィールドは、クラス宣言時に事前に定義しておく必要があります。コンストラクターや他のメソッドで動的に追加することはできません。これは従来のパブリックプロパティとは異なる重要な特徴です。
プライベート要素の活用場面
プライベート要素は、さまざまな場面でコードの品質と安全性を向上させます。適切に活用することで、バグの発生を抑え、メンテナンスしやすいコードベースを構築できます。
データの整合性保護
プライベートフィールドの最も一般的な使用場面は、データの整合性を保護する必要がある場合です。外部から直接値を変更されると問題が生じるデータは、プライベートフィールドとして隠蔽し、バリデーション付きのメソッドを通じてのみアクセスできるようにします。
class Temperature {
#celsius;
constructor(celsius) {
this.setCelsius(celsius);
}
setCelsius(value) {
if (typeof value !== 'number' || value -273.15) {
throw new Error('無効な温度値です');
}
this.#celsius = value;
}
getCelsius() {
return this.#celsius;
}
getFahrenheit() {
return this.#celsius * 9/5 + 32;
}
}
内部状態の管理
クラスの内部でのみ使用される状態管理用のフィールドは、プライベートにすることで実装の詳細を隠蔽できます。これにより、将来的な実装変更が容易になります。
class Cache {
#storage = new Map();
#maxSize = 100;
#hits = 0;
#misses = 0;
set(key, value) {
if (this.#storage.size >= this.#maxSize) {
this.#evictOldest();
}
this.#storage.set(key, value);
}
get(key) {
if (this.#storage.has(key)) {
this.#hits++;
return this.#storage.get(key);
}
this.#misses++;
return null;
}
#evictOldest() {
const firstKey = this.#storage.keys().next().value;
this.#storage.delete(firstKey);
}
getStats() {
return {
hitRate: this.#hits / (this.#hits + this.#misses),
size: this.#storage.size
};
}
}
ヘルパーメソッドの隠蔽
クラス内部でのみ使用される補助的なメソッドは、プライベートメソッドとして定義することで、クラスのパブリックAPIをシンプルで分かりやすく保つことができます。
class UserValidator {
#emailRegex = /^[^\s@]+@[^\s@]+\.[^\s@]+$/;
#minPasswordLength = 8;
validate(user) {
return this.#validateEmail(user.email) &&
this.#validatePassword(user.password) &&
this.#validateUsername(user.username);
}
#validateEmail(email) {
return this.#emailRegex.test(email);
}
#validatePassword(password) {
return password.length >= this.#minPasswordLength &&
this.#hasUpperCase(password) &&
this.#hasLowerCase(password) &&
this.#hasNumber(password);
}
#validateUsername(username) {
return username.length >= 3 && username.length = 20;
}
#hasUpperCase(str) {
return /[A-Z]/.test(str);
}
#hasLowerCase(str) {
return /[a-z]/.test(str);
}
#hasNumber(str) {
return /[0-9]/.test(str);
}
}
セキュリティが重要な情報の保護
APIキーや認証トークンなど、セキュリティ上重要な情報を扱う場合、プライベート要素を使用することで、意図しない情報漏洩のリスクを低減できます。
class ApiClient {
#apiKey;
#baseUrl;
constructor(apiKey, baseUrl) {
this.#apiKey = apiKey;
this.#baseUrl = baseUrl;
}
#getHeaders() {
return {
'Authorization': `Bearer ${this.#apiKey}`,
'Content-Type': 'application/json'
};
}
async fetch(endpoint) {
const response = await fetch(`${this.#baseUrl}${endpoint}`, {
headers: this.#getHeaders()
});
return response.json();
}
}
このように、プライベート要素は適切なカプセル化を実現し、コードの安全性と保守性を大幅に向上させる重要な機能です。
クラスの継承とその仕組み

JavaScriptのクラスにおける継承は、既存のクラスの機能を再利用しながら新しいクラスを作成できる強力な仕組みです。継承を活用することで、コードの重複を避け、保守性の高いプログラムを構築できます。このセクションでは、extendsキーワードを使った継承の実装方法から、親クラスとのやり取り、そして評価の順序まで、継承の仕組みを詳しく解説します。
継承を用いたクラスの拡張
JavaScriptでクラスを継承するには、extendsキーワードを使用します。継承によって、子クラス(サブクラス)は親クラス(スーパークラス)のプロパティやメソッドを受け継ぎ、さらに独自の機能を追加できます。
基本的な継承の構文は以下の通りです:
class Animal {
constructor(name) {
this.name = name;
}
speak() {
console.log(`${this.name}が鳴いています`);
}
}
class Dog extends Animal {
constructor(name, breed) {
super(name); // 親クラスのコンストラクターを呼び出す
this.breed = breed;
}
bark() {
console.log(`${this.name}がワンワンと吠えています`);
}
}
const myDog = new Dog('ポチ', '柴犬');
myDog.speak(); // "ポチが鳴いています"
myDog.bark(); // "ポチがワンワンと吠えています"
この例では、DogクラスがAnimalクラスを継承しています。Dogクラスは親クラスのspeakメソッドを利用できると同時に、独自のbarkメソッドも持つことができます。これにより、共通の機能は親クラスに集約し、特化した機能は子クラスで実装するという設計が可能になります。
継承を使う主なメリットは以下の通りです:
- コードの再利用: 共通の機能を親クラスにまとめることで、重複コードを削減できます
- 階層構造の表現: 概念的な関係性をコードで明確に表現できます
- 拡張性の向上: 既存のクラスを変更せずに新しい機能を追加できます
- ポリモーフィズム: 共通のインターフェースを通じて異なる実装を扱えます
親クラスのメソッド呼び出し
子クラスから親クラスのメソッドやコンストラクターにアクセスするには、superキーワードを使用します。superは継承において重要な役割を果たし、親クラスの機能を適切に呼び出すために不可欠です。
コンストラクターでのsuper呼び出し:
子クラスでコンストラクターを定義する場合、必ずsuper()を呼び出してから、thisキーワードを使用する必要があります。これを忘れるとエラーが発生します。
class Vehicle {
constructor(type, wheels) {
this.type = type;
this.wheels = wheels;
}
}
class Car extends Vehicle {
constructor(brand, model) {
super('car', 4); // 親クラスのコンストラクターを呼び出す
this.brand = brand;
this.model = model;
}
}
メソッドでのsuper呼び出し:
子クラスで親クラスのメソッドをオーバーライドした場合でも、super.メソッド名()の形式で親クラスのメソッドを呼び出すことができます。
class Rectangle {
constructor(width, height) {
this.width = width;
this.height = height;
}
getArea() {
return this.width * this.height;
}
describe() {
return `幅${this.width}、高さ${this.height}の長方形`;
}
}
class ColoredRectangle extends Rectangle {
constructor(width, height, color) {
super(width, height);
this.color = color;
}
describe() {
// 親クラスのdescribeメソッドを呼び出して拡張
return `${super.describe()}、色は${this.color}`;
}
}
const rect = new ColoredRectangle(10, 5, '赤');
console.log(rect.describe());
// "幅10、高さ5の長方形、色は赤"
このように、superを使うことで親クラスの機能を活用しながら、子クラスで機能を拡張できます。これにより、既存のロジックを壊すことなく新しい振る舞いを追加できます。
継承における評価順序
JavaScriptのクラス継承では、インスタンスの生成やメソッドの呼び出しが特定の順序で評価されます。この評価順序を理解することは、予期しない動作を避け、正しいクラス設計を行うために重要です。
コンストラクターの評価順序:
クラスのインスタンスを生成する際、コンストラクターは以下の順序で実行されます:
- 子クラスのコンストラクターが呼び出される
- super()によって親クラスのコンストラクターが実行される
- 親クラスのフィールド初期化が行われる
- 親クラスのコンストラクター本体が実行される
- 子クラスのフィールド初期化が行われる
- 子クラスのコンストラクター本体(super()以降)が実行される
class Parent {
parentField = console.log('親フィールド初期化');
constructor() {
console.log('親コンストラクター');
}
}
class Child extends Parent {
childField = console.log('子フィールド初期化');
constructor() {
console.log('子コンストラクター開始');
super();
console.log('子コンストラクター終了');
}
}
new Child();
// 出力順序:
// "子コンストラクター開始"
// "親フィールド初期化"
// "親コンストラクター"
// "子フィールド初期化"
// "子コンストラクター終了"
メソッド解決の順序:
メソッドが呼び出される際、JavaScriptは以下の順序でメソッドを探索します:
- インスタンス自身のプロパティ
- 子クラスのプロトタイプ
- 親クラスのプロトタイプ
- プロトタイプチェーンを順に遡る
class A {
method() {
console.log('クラスA');
}
}
class B extends A {
method() {
console.log('クラスB');
}
}
class C extends B {
// methodをオーバーライドしない
}
const instance = new C();
instance.method(); // "クラスB" - 最も近い親クラスのメソッドが呼ばれる
super呼び出しを忘れた場合や誤った順序で記述した場合、ReferenceErrorが発生します。特に子クラスのコンストラクターでthisにアクセスする前にsuper()を呼び出すことは必須です。
継承の評価順序を正しく理解することで、複雑なクラス階層でも予測可能な動作を実現でき、デバッグやメンテナンスが容易になります。
メソッドのバインディング

JavaScriptのクラスでメソッドを扱う際、メソッドがどのオブジェクトに紐付けられているかを理解することは非常に重要です。メソッドを別の場所で参照したり、コールバック関数として渡したりする際に、意図しない動作を引き起こす可能性があるためです。適切なバインディング処理を行うことで、thisの参照先を明確にし、予測可能なコードを書くことができます。本セクションでは、JavaScriptのクラスにおけるメソッドのバインディングについて、その仕組みと実装方法を詳しく解説します。
インスタンスメソッドと静的メソッドのバインド処理
JavaScriptのクラスでは、メソッドの種類によってバインディングの挙動が異なります。インスタンスメソッドは各インスタンスのコンテキストで実行される一方、静的メソッドはクラス自体に紐付けられています。
まず、インスタンスメソッドのバインディング問題を見てみましょう。以下のコードは典型的なバインディングの問題を示しています。
class Counter {
constructor() {
this.count = 0;
}
increment() {
this.count++;
console.log(this.count);
}
}
const counter = new Counter();
counter.increment(); // 1
// メソッドを変数に代入すると問題が発生
const incrementFunc = counter.increment;
incrementFunc(); // エラー: thisがundefinedになる
このような問題が発生する理由は、メソッドを変数に代入したり、コールバック関数として渡したりすると、thisのコンテキストが失われるためです。この問題を解決するためには、明示的にバインディングを行う必要があります。
最も伝統的な解決方法は、bindメソッドを使用することです。
class Counter {
constructor() {
this.count = 0;
// コンストラクター内でバインド
this.increment = this.increment.bind(this);
}
increment() {
this.count++;
console.log(this.count);
}
}
const counter = new Counter();
const incrementFunc = counter.increment;
incrementFunc(); // 正常に動作
静的メソッドの場合、バインディングの動作は異なります。静的メソッドはクラス自体に紐付けられているため、インスタンスではなくクラス名を通じて呼び出されます。
class MathUtil {
static double(num) {
return num * 2;
}
static getClassName() {
return this.name; // thisはクラス自体を参照
}
}
console.log(MathUtil.double(5)); // 10
console.log(MathUtil.getClassName()); // "MathUtil"
// 静的メソッドも参照を渡すと問題が発生する可能性がある
const getNameFunc = MathUtil.getClassName;
console.log(getNameFunc()); // undefinedまたはエラー
静的メソッドでも同様にbindを使ってバインディングを行うことができますが、静的メソッドはクラス自体にバインドする必要があります。
クラスフィールドを使ったメソッドバインド
ES2022以降、クラスフィールド構文を使用することで、より簡潔かつ直感的にメソッドのバインディング問題を解決できます。この方法は、アロー関数の特性を活用し、自動的に正しいthisコンテキストを保持します。
クラスフィールドにアロー関数を定義することで、メソッドは自動的にインスタンスにバインドされます。
class Counter {
count = 0;
// クラスフィールドとしてアロー関数を定義
increment = () => {
this.count++;
console.log(this.count);
}
decrement = () => {
this.count--;
console.log(this.count);
}
}
const counter = new Counter();
counter.increment(); // 1
// メソッドを変数に代入しても正常に動作
const incrementFunc = counter.increment;
incrementFunc(); // 2
// イベントハンドラーとして渡す場合も安全
setTimeout(counter.increment, 1000); // 正常に動作
この方法には複数の利点があります。まず、コンストラクター内でbindを呼び出す必要がなくなり、コードがよりクリーンになります。また、各メソッドが自動的にインスタンスにバインドされるため、コールバック関数として渡す際の問題が自然に解決されます。
ただし、この方法には考慮すべき点もあります。クラスフィールドとして定義されたメソッドは、各インスタンスごとに新しい関数が作成されるため、メモリ使用量が増加する可能性があります。
class Button {
label = "Click me";
// 通常のメソッド(プロトタイプに定義される)
getLabel() {
return this.label;
}
// クラスフィールドのメソッド(各インスタンスに定義される)
handleClick = () => {
console.log(`${this.label} clicked`);
}
}
const button1 = new Button();
const button2 = new Button();
// プロトタイプメソッドは共有される
console.log(button1.getLabel === button2.getLabel); // true
// クラスフィールドのメソッドは各インスタンスで別々
console.log(button1.handleClick === button2.handleClick); // false
実際の開発では、使用状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。イベントハンドラーやコールバック関数として使用するメソッドにはクラスフィールド構文を、多数のインスタンスで共有されるユーティリティメソッドには通常のメソッド定義を使用するといった使い分けが推奨されます。
class TodoItem {
constructor(text) {
this.text = text;
this.completed = false;
}
// 共有されるユーティリティメソッド
getText() {
return this.text;
}
// イベントハンドラーとして使用されるためバインドが必要
toggle = () => {
this.completed = !this.completed;
console.log(`${this.text}: ${this.completed}`);
}
// DOMイベントで使用
handleDelete = (event) => {
event.preventDefault();
console.log(`Deleting: ${this.text}`);
}
}
const todo = new TodoItem("Learn JavaScript");
document.querySelector("#toggleBtn").addEventListener("click", todo.toggle);
このように、クラスフィールドを使ったメソッドバインドは、モダンなJavaScript開発において非常に実用的な技術となっています。特にReactなどのフレームワークでイベントハンドラーを扱う際に、この構文は広く活用されています。
プロトタイプとクラスの関係

JavaScriptのクラスは、見た目こそ他のプログラミング言語のクラスに似ていますが、その内部動作はJavaScript独自のプロトタイプベースの継承メカニズムに基づいています。クラス構文を使って定義したクラスも、実行時にはプロトタイプチェーンを利用したオブジェクト指向の仕組みとして機能します。この関係を理解することで、JavaScriptのクラスがどのように動作するのかをより深く把握できます。
クラス構文で定義したメソッドは、実際にはそのクラスのプロトタイプオブジェクトに追加されます。例えば、クラス内で定義したインスタンスメソッドは、ClassName.prototypeに格納され、すべてのインスタンスから共有される形で利用されます。これにより、メモリ効率の良いオブジェクト生成が可能になっています。
class Animal {
constructor(name) {
this.name = name;
}
speak() {
console.log(`${this.name}が鳴いています`);
}
}
// プロトタイプにメソッドが格納されていることを確認
console.log(Animal.prototype.speak); // [Function: speak]
const cat = new Animal('猫');
console.log(cat.__proto__ === Animal.prototype); // true
上記のコードからわかるように、speakメソッドはAnimal.prototypeに格納されています。インスタンスcatは、プロトタイプチェーンを通じてこのメソッドにアクセスできる仕組みです。各インスタンスが個別にメソッドを持つのではなく、プロトタイプを参照することで、効率的なメモリ使用が実現されています。
一方で、コンストラクター内で定義したプロパティ(上記のnameなど)は、各インスタンス固有のデータとして保持されます。この区別が重要で、以下のような特性を持ちます:
- インスタンスプロパティ:各オブジェクトが個別に保持するデータ
- プロトタイプメソッド:すべてのインスタンスで共有される振る舞い
- 静的メソッド:クラス自体に紐づくメソッド(プロトタイプには含まれない)
継承関係においても、プロトタイプチェーンが重要な役割を果たします。子クラスのプロトタイプは、親クラスのプロトタイプを参照する形で構築されます。これにより、子クラスのインスタンスは親クラスのメソッドにもアクセスできるようになります。
class Dog extends Animal {
bark() {
console.log(`${this.name}がワンワン鳴いています`);
}
}
const dog = new Dog('犬');
// プロトタイプチェーンの確認
console.log(dog.__proto__ === Dog.prototype); // true
console.log(Dog.prototype.__proto__ === Animal.prototype); // true
console.log(dog instanceof Dog); // true
console.log(dog instanceof Animal); // true
このコード例では、DogクラスのプロトタイプがAnimalクラスのプロトタイプを継承していることが確認できます。dogインスタンスは、まずDog.prototypeを参照し、見つからなければAnimal.prototypeを探索するというプロトタイプチェーンを辿ります。
さらに、クラス構文を使っていても、従来のプロトタイプ操作との互換性が保たれています。必要に応じて、prototypeプロパティを直接操作することも可能です:
// クラス定義後にプロトタイプにメソッドを追加
Animal.prototype.sleep = function() {
console.log(`${this.name}が眠っています`);
};
const bird = new Animal('鳥');
bird.sleep(); // 鳥が眠っています
ただし、クラス構文で定義したメソッドは列挙不可能(non-enumerable)に設定されますが、プロトタイプに直接追加したメソッドは列挙可能になるという違いがあります。この微妙な違いにより、for...inループでの挙動が異なる場合があるため注意が必要です。
プロトタイプとクラスの関係を理解することで、JavaScriptのオブジェクト指向プログラミングにおける以下の重要なポイントが明確になります:
- クラスはプロトタイプベースの仕組みの上に構築された構文的な表現である
- メソッドの共有によるメモリ効率の向上が実現されている
- 継承はプロトタイプチェーンによって実装されている
- 既存のプロトタイプ操作との互換性が維持されている
このように、JavaScriptのクラスはプロトタイプという基盤技術の上に構築された、より読みやすく書きやすい構文なのです。内部の仕組みを理解することで、より効果的なコード設計やデバッグが可能になります。
従来の方式との違い

JavaScriptにおけるクラスの実装方法は、ES6(ECMAScript 2015)の登場によって大きく変化しました。現在のclass構文が導入される以前から、JavaScriptではオブジェクト指向プログラミングが可能でしたが、その実現方法は独特なものでした。従来の方式と現代のclass構文との違いを理解することで、JavaScriptのクラスの本質をより深く把握することができます。
ES6以前のクラス表現
ES6以前のJavaScriptでは、コンストラクタ関数とプロトタイプチェーンを組み合わせてクラスのような動作を実現していました。この方式はプロトタイプベースの継承と呼ばれ、他の多くのオブジェクト指向言語とは異なるアプローチでした。
従来のコンストラクタ関数を使った実装例は以下のようになります。
// コンストラクタ関数
function Person(name, age) {
this.name = name;
this.age = age;
}
// プロトタイプにメソッドを追加
Person.prototype.greet = function() {
console.log('こんにちは、' + this.name + 'です。');
};
// インスタンスの生成
var person1 = new Person('田中', 30);
person1.greet(); // こんにちは、田中です。
この方式では、以下のような特徴がありました。
- コンストラクタ関数を通常の関数として定義する
- メソッドはprototypeプロパティに追加する
- 継承を実現するにはObject.createやprototypeの操作が必要
- 視覚的にクラスの全体構造が把握しにくい
継承を実装する場合は、さらに複雑な記述が必要でした。
// 親クラス(コンストラクタ関数)
function Animal(name) {
this.name = name;
}
Animal.prototype.speak = function() {
console.log(this.name + 'が鳴いています。');
};
// 子クラス(コンストラクタ関数)
function Dog(name, breed) {
Animal.call(this, name); // 親コンストラクタの呼び出し
this.breed = breed;
}
// プロトタイプチェーンの設定
Dog.prototype = Object.create(Animal.prototype);
Dog.prototype.constructor = Dog;
// メソッドの追加
Dog.prototype.bark = function() {
console.log('ワンワン!');
};
この方式は動作するものの、初心者には理解が難しく、コードの可読性も低いという問題がありました。特にプロトタイプチェーンの仕組みや、constructorプロパティの再設定などは混乱を招きやすい部分でした。
単なるシンタックスシュガーではない理由
ES6で導入されたclass構文は、一見すると従来のプロトタイプベースの実装を簡潔に書けるようにした「シンタックスシュガー(糖衣構文)」に見えます。しかし、実際には単なる見た目の改善以上の重要な違いと新機能が存在します。
主な違いとして、以下の点が挙げられます。
| 項目 | 従来の方式 | class構文 |
|---|---|---|
| 巻き上げ(Hoisting) | 関数宣言は巻き上げられる | クラス宣言は巻き上げられない |
| 関数としての呼び出し | 可能(newなしで実行可能) | 不可能(必ずnewが必要) |
| strictモード | 明示的に指定が必要 | 自動的にstrictモード |
| メソッドの列挙 | 列挙可能 | 列挙不可能 |
具体的な動作の違いを見てみましょう。
// 従来の方式:関数として呼び出せる
function OldStyle(value) {
this.value = value;
}
// OldStyle(10); // エラーにならない(グローバルオブジェクトを汚染)
// class構文:関数として呼び出せない
class NewStyle {
constructor(value) {
this.value = value;
}
}
// NewStyle(10); // TypeError: Class constructor NewStyle cannot be invoked without 'new'
さらに、class構文では従来の方式では実現できなかった機能も提供されています。
- プライベートフィールド:#記号を使った真のプライベート変数の実装
- 静的ブロック:クラスの静的初期化処理をまとめて記述
- フィールド宣言:コンストラクタ外でのフィールド定義が可能
- super呼び出し:親クラスのメソッドを明示的に呼び出せる簡潔な構文
class ModernClass {
// パブリックフィールド
publicField = 'public';
// プライベートフィールド(従来の方式では実現不可能)
#privateField = 'private';
// 静的フィールド
static staticField = 'static';
#privateMethod() {
return this.#privateField;
}
getPrivate() {
return this.#privateMethod();
}
}
class構文は単なる書き方の違いではなく、より安全で予測可能なコードを書くための機能強化と言えます。クラスとして定義されたものは必ずnewで呼び出す必要があり、自動的にstrictモードで実行されるため、意図しない動作を防ぐことができます。また、プライベートフィールドの導入により、カプセル化をより厳密に実現できるようになりました。
ミックスインパターンの実装

JavaScriptのclassは単一継承のみをサポートしており、複数のクラスから同時に機能を継承することはできません。しかし、実際の開発では複数の異なる機能を組み合わせたい場面が頻繁に発生します。このような場合に有効なのがミックスインパターンです。ミックスインは、複数のオブジェクトや関数を組み合わせることで、クラスに多様な機能を追加する設計パターンとして広く活用されています。
基本的なミックスインの実装方法
ミックスインの最も基本的な実装方法は、関数を使ってクラスを受け取り、拡張された新しいクラスを返す手法です。以下のコード例では、ログ機能を追加するミックスインを実装しています。
// ログ機能を提供するミックスイン
const LoggerMixin = (Base) => class extends Base {
log(message) {
console.log(`[${this.constructor.name}] ${message}`);
}
logError(error) {
console.error(`[${this.constructor.name}] ERROR: ${error}`);
}
};
// 基底クラス
class User {
constructor(name) {
this.name = name;
}
}
// ミックスインを適用
class LoggableUser extends LoggerMixin(User) {
greet() {
this.log(`Hello, I'm ${this.name}`);
}
}
const user = new LoggableUser('太郎');
user.greet(); // [LoggableUser] Hello, I'm 太郎
この実装では、LoggerMixinという関数が基底クラスを受け取り、そのクラスを継承した新しいクラスを返しています。この手法により、任意のクラスにログ機能を追加できる柔軟性が生まれます。
複数のミックスインの組み合わせ
実際の開発では、複数のミックスインを組み合わせて使用することが一般的です。以下は複数のミックスインを順次適用する例です。
// タイムスタンプ機能を提供するミックスイン
const TimestampMixin = (Base) => class extends Base {
getTimestamp() {
return new Date().toISOString();
}
logWithTime(message) {
console.log(`[${this.getTimestamp()}] ${message}`);
}
};
// バリデーション機能を提供するミックスイン
const ValidatableMixin = (Base) => class extends Base {
validate() {
return this.name && this.name.length > 0;
}
isValid() {
return this.validate();
}
};
// 複数のミックスインを適用
class EnhancedUser extends ValidatableMixin(TimestampMixin(LoggerMixin(User))) {
constructor(name) {
super(name);
if (!this.isValid()) {
this.logError('Invalid user name');
}
}
}
const enhancedUser = new EnhancedUser('花子');
enhancedUser.logWithTime('User created'); // [2024-01-01T00:00:00.000Z] User created
複数のミックスインをネストして適用することで、各機能を独立して管理しながら、必要な機能を組み合わせたクラスを構築できます。ただし、適用順序によって動作が変わる可能性があるため注意が必要です。
ヘルパー関数を使った可読性の向上
複数のミックスインをネストすると可読性が低下するため、ヘルパー関数を作成すると便利です。
// 複数のミックスインを適用するヘルパー関数
function applyMixins(BaseClass, ...mixins) {
return mixins.reduce((currentClass, mixin) => {
return mixin(currentClass);
}, BaseClass);
}
// より読みやすい記述が可能に
class AdvancedUser extends applyMixins(
User,
LoggerMixin,
TimestampMixin,
ValidatableMixin
) {
constructor(name) {
super(name);
this.log('Advanced user initialized');
}
}
このapplyMixins関数は、基底クラスと任意の数のミックスインを受け取り、それらを順次適用します。コードの可読性が大幅に向上し、メンテナンス性も高まります。
Object.assignを使ったシンプルなミックスイン
継承ベースのミックスインとは別に、Object.assignを使ってメソッドを直接コピーする方法もあります。
// メソッドのコレクション
const SerializableMethods = {
toJSON() {
return JSON.stringify(this);
},
fromJSON(json) {
Object.assign(this, JSON.parse(json));
return this;
}
};
class Product {
constructor(name, price) {
this.name = name;
this.price = price;
}
}
// プロトタイプにメソッドを追加
Object.assign(Product.prototype, SerializableMethods);
const product = new Product('ノートPC', 100000);
const json = product.toJSON();
console.log(json); // {"name":"ノートPC","price":100000}
この方法はシンプルで理解しやすい反面、継承チェーンを利用できないため、superキーワードが使えないという制限があります。
ミックスイン使用時の注意点
ミックスインパターンを活用する際は、いくつかの重要な注意点があります。
- メソッド名の競合: 複数のミックスインが同名のメソッドを定義している場合、後から適用されたメソッドが優先されます
- プライベートフィールドの制限: ミックスインでプライベートフィールド(#で始まるフィールド)を使用する場合、正しく動作しないことがあります
- 型推論の困難さ: TypeScriptなどの型システムでは、ミックスインの型定義が複雑になる場合があります
- デバッグの複雑化: 継承階層が深くなると、エラーの原因特定が難しくなる可能性があります
ミックスインパターンは、JavaScriptのclassに柔軟性をもたらす強力な手法です。単一継承の制限を補いながら、コードの再利用性を高めることができます。ただし、過度に複雑なミックスインの組み合わせは避け、シンプルで理解しやすい設計を心がけることが重要です。
クラス使用時の注意点とベストプラクティス

JavaScriptのクラスを効果的に活用するためには、いくつかの重要な注意点とベストプラクティスを理解しておく必要があります。適切な設計と実装を心がけることで、保守性が高く、バグの少ないコードを書くことができます。ここでは、実務で役立つクラス使用時のポイントを詳しく解説します。
クラス宣言の巻き上げに注意する
JavaScriptのクラスは関数宣言とは異なり、宣言の巻き上げ(ホイスティング)が行われません。そのため、クラスを使用する前に必ず定義しておく必要があります。クラス定義より前にインスタンスを作成しようとすると、ReferenceErrorが発生します。
// エラーが発生する例
const instance = new MyClass(); // ReferenceError
class MyClass {
constructor() {
this.value = 10;
}
}
// 正しい使用例
class MyClass {
constructor() {
this.value = 10;
}
}
const instance = new MyClass(); // 正常に動作
thisのバインディング問題への対処
クラスのメソッドをコールバック関数として渡す際には、thisの参照が失われる問題に注意が必要です。特にイベントハンドラーや非同期処理で頻繁に発生します。この問題を解決するには、アロー関数を使ったフィールド定義、bindメソッドの使用、またはコンストラクター内でのバインディングなどの方法があります。
class Counter {
constructor() {
this.count = 0;
}
// 通常のメソッド(thisが失われる可能性がある)
increment() {
this.count++;
}
// アロー関数によるフィールド定義(推奨)
safeIncrement = () => {
this.count++;
}
}
クラスの単一責任原則を守る
各クラスは単一の責任のみを持つべきという原則を守ることが重要です。一つのクラスに多くの機能を詰め込みすぎると、コードの理解や保守が困難になります。クラスが大きくなりすぎた場合は、適切に分割することを検討しましょう。
- クラスが持つべき責任範囲を明確に定義する
- 関連性の低い機能は別のクラスに分離する
- クラス名は責任を明確に表現する名前にする
- メソッド数が多すぎる場合は設計を見直す
プライベート要素を積極的に活用する
カプセル化を適切に行うために、プライベートフィールドとメソッドを積極的に活用しましょう。外部から直接アクセスされるべきでない内部状態や実装の詳細は、#プレフィックスを使ってプライベートにすることで、意図しない変更や誤用を防ぐことができます。
class BankAccount {
#balance = 0; // プライベートフィールド
deposit(amount) {
if (this.#isValidAmount(amount)) {
this.#balance += amount;
}
}
#isValidAmount(amount) { // プライベートメソッド
return amount > 0 && Number.isFinite(amount);
}
getBalance() {
return this.#balance;
}
}
継承の深さを適切に保つ
継承は強力な機能ですが、継承階層が深くなりすぎると、コードの理解と保守が困難になります。一般的には、継承の深さは3階層程度までに抑えることが推奨されます。深い継承よりも、コンポジション(合成)やミックスインパターンの使用を検討することも有効です。
静的メソッドとインスタンスメソッドを適切に使い分ける
静的メソッドは、インスタンスの状態に依存しないユーティリティ関数やファクトリーメソッドに適しています。一方、インスタンスメソッドは、特定のインスタンスの状態を操作する場合に使用します。この使い分けを明確にすることで、クラスの設計意図が理解しやすくなります。
class DateUtils {
// 静的メソッド(インスタンス化不要)
static formatDate(date) {
return date.toISOString().split('T')[0];
}
// 静的ファクトリーメソッド
static createFromString(dateString) {
return new Date(dateString);
}
}
コンストラクターでの複雑な処理を避ける
コンストラクターは、初期化処理のみを行う場所として設計すべきです。複雑なロジックや非同期処理、外部リソースへのアクセスなどをコンストラクター内で行うと、テストが困難になり、予期しないエラーが発生しやすくなります。複雑な初期化が必要な場合は、静的ファクトリーメソッドの使用を検討しましょう。
適切な命名規則を守る
クラスやメソッドの命名は、コードの可読性に大きく影響します。以下の命名規則を守ることで、コードの意図が明確になります。
- クラス名は大文字で始めるPascalCaseを使用する
- メソッド名とフィールド名はcamelCaseを使用する
- プライベート要素には#プレフィックスを付ける
- boolean型を返すメソッドにはis、has、canなどのプレフィックスを付ける
- クラス名は名詞、メソッド名は動詞で表現する
ゲッターとセッターの使用を慎重に判断する
ゲッターとセッターは便利な機能ですが、単に値の取得と設定だけを行う場合は、パブリックフィールドで十分な場合もあります。ゲッターやセッターを使用する明確な理由(バリデーション、計算処理、副作用など)がある場合にのみ実装しましょう。
class Product {
#price = 0;
// バリデーションが必要な場合はセッターを使用
set price(value) {
if (value 0) {
throw new Error('価格は0以上である必要があります');
}
this.#price = value;
}
get price() {
return this.#price;
}
// 計算が必要な場合はゲッターを使用
get priceWithTax() {
return this.#price * 1.1;
}
}
イミュータブルな設計を検討する
可能な限り、オブジェクトの状態を変更不可能(イミュータブル)にする設計を検討しましょう。状態の変更が必要な場合は、新しいインスタンスを返すメソッドを提供することで、予期しない副作用を防ぎ、デバッグやテストが容易になります。
ドキュメンテーションとコメントを適切に記述する
クラスの目的、各メソッドの役割、パラメータの型や戻り値については、JSDocなどを使って適切にドキュメント化することが重要です。特に公開APIとして使用されるクラスでは、詳細なドキュメンテーションが不可欠です。
/**
* ユーザー情報を管理するクラス
* @class
*/
class User {
/**
* Userクラスのコンストラクター
* @param {string} name - ユーザー名
* @param {string} email - メールアドレス
*/
constructor(name, email) {
this.name = name;
this.email = email;
}
/**
* ユーザー情報が有効かどうかを検証する
* @returns {boolean} 有効な場合true
*/
isValid() {
return this.name && this.email.includes('@');
}
}
ブラウザ対応状況と互換性

JavaScriptのクラス構文を実際のプロジェクトで採用する際には、ターゲットとするブラウザやランタイム環境での対応状況を正確に把握しておく必要があります。クラス機能はES2015(ES6)で導入されて以降、段階的に機能が追加されてきたため、基本的なクラス構文と新しい機能では対応状況が異なる点に注意が必要です。
基本的なクラス構文の対応状況
ES2015で導入された基本的なクラス構文(class宣言、コンストラクター、メソッド、継承、super)は、現代の主要なブラウザではほぼ完全にサポートされています。具体的には以下のバージョン以降で利用可能です。
- Chrome 49以降(2016年3月リリース)
- Firefox 45以降(2016年3月リリース)
- Safari 9以降(2015年9月リリース)
- Edge 13以降(2015年11月リリース)
- Node.js 6.0以降(2016年4月リリース)
これらのバージョンは既に数年以上前にリリースされているため、モダンな開発環境においては基本的なクラス構文の使用に大きな懸念はありません。ただし、Internet Explorer 11は一切クラス構文をサポートしていないため、IE11をサポート対象に含める場合はトランスパイルが必須となります。
新しいクラス機能の対応状況
ES2015以降に追加された新しいクラス機能については、より慎重な確認が必要です。特に注意が必要な機能とその対応状況を以下に示します。
| 機能 | 導入時期 | 主要ブラウザ対応状況 |
|---|---|---|
| パブリッククラスフィールド | ES2022 | Chrome 72+、Firefox 69+、Safari 14.1+、Edge 79+ |
| プライベートフィールド(#構文) | ES2022 | Chrome 74+、Firefox 90+、Safari 14.1+、Edge 79+ |
| プライベートメソッド | ES2022 | Chrome 84+、Firefox 90+、Safari 15+、Edge 84+ |
| 静的初期化ブロック | ES2022 | Chrome 94+、Firefox 93+、Safari 16.4+、Edge 94+ |
| 静的フィールド | ES2022 | Chrome 72+、Firefox 75+、Safari 14.1+、Edge 79+ |
これらの新機能は比較的最近のブラウザバージョンでのみサポートされているため、プロジェクトのブラウザサポートポリシーに応じて使用可否を判断する必要があります。特にプライベートフィールドや静的初期化ブロックは2021年以降のブラウザでないと動作しないため、古いデバイスやブラウザをサポートする必要がある場合は注意が必要です。
互換性を確保するための対応策
幅広いブラウザ環境でJavaScriptのクラスを利用するためには、いくつかの実践的なアプローチがあります。最も一般的な方法は、BabelなどのトランスパイラーとWebpackやViteなどのバンドラーを組み合わせて使用することです。
Babelを使用する場合、@babel/preset-envを設定することで、ターゲットとするブラウザ環境に応じて自動的に必要なトランスパイルを実行できます。以下は基本的な設定例です。
{
"presets": [
["@babel/preset-env", {
"targets": {
"browsers": ["last 2 versions", "ie >= 11"]
}
}]
],
"plugins": [
"@babel/plugin-proposal-class-properties",
"@babel/plugin-proposal-private-methods"
]
}
この設定により、最新のクラス機能を使用したコードも、指定したブラウザ環境で動作する形式に変換されます。特にプライベートフィールドや静的フィールドなどの新機能を使用する場合は、対応するBabelプラグインの導入が重要です。
Can I Useでの確認方法
実際の開発では、Can I Useなどのブラウザ互換性データベースを参照して、使用する機能のサポート状況を確認することが推奨されます。特にクライアントの要件でサポートブラウザが明確に指定されている場合は、プロジェクト開始前に以下の項目を確認しておくべきです。
- ES6 Classes(基本的なクラス構文)
- Public class fields(パブリッククラスフィールド)
- Private class fields(プライベートフィールド)
- Static class features(静的フィールドと静的ブロック)
これらの確認を怠ると、開発環境では正常に動作していても本番環境で予期しないエラーが発生する可能性があります。
Node.js環境での対応状況
サーバーサイドやビルドツールで使用するNode.js環境においても、クラス機能の対応状況を把握しておくことは重要です。基本的なクラス構文はNode.js 6.0以降で利用可能ですが、新しい機能については以下のバージョンが必要です。
- パブリッククラスフィールド:Node.js 12.0以降
- プライベートフィールド:Node.js 12.0以降(–harmony-private-methodsフラグ付き)、Node.js 14.6以降(デフォルト有効)
- 静的初期化ブロック:Node.js 16.11以降
Node.jsの長期サポート版(LTS)を使用している場合は、ほとんどのクラス機能が問題なく利用できます。ただし、プロジェクトで使用しているNode.jsのバージョンが古い場合は、package.jsonのenginesフィールドで最小バージョンを明記しておくことで、チーム全体で互換性の問題を防ぐことができます。
TypeScriptによる互換性の向上
TypeScriptを使用することで、クラスの互換性問題をより効果的に管理できます。TypeScriptは独自のトランスパイル機能を持ち、tsconfig.jsonのtargetオプションで出力するJavaScriptのバージョンを指定できます。これにより、最新のクラス構文を使用しながらも、古いブラウザ環境向けのコードを生成することが可能です。
{
"compilerOptions": {
"target": "ES5",
"lib": ["ES2022", "DOM"],
"useDefineForClassFields": true
}
}
この設定により、プライベートフィールドなどの新機能を使用したコードもES5互換の形式に変換されます。ただし、TypeScriptのトランスパイルだけでは対応できないランタイム機能(Promiseなど)については、別途ポリフィルが必要になる点に注意してください。
実践的なコード例

JavaScriptのクラスを実際に活用するためには、理論的な知識だけでなく、具体的なコード例を通じて理解を深めることが重要です。このセクションでは、実務でも使用頻度の高い基本的なクラスの実装と、継承を活用した応用的な実装の2つのパターンをご紹介します。これらの例を参考にすることで、javascript classの実践的な使い方を体系的に習得できます。
基本的なクラスの実装例
まず、実務でよく使用される基本的なクラスの実装例として、商品管理システムを想定した「Product」クラスを見ていきましょう。このクラスでは、コンストラクター、メソッド、ゲッター・セッターなど、クラスの基本的な要素を網羅しています。
class Product {
constructor(name, price, quantity) {
this.name = name;
this.price = price;
this.quantity = quantity;
}
// 商品の合計金額を計算するメソッド
getTotalPrice() {
return this.price * this.quantity;
}
// 在庫を追加するメソッド
addStock(amount) {
if (amount = 0) {
throw new Error('追加する数量は正の数でなければなりません');
}
this.quantity += amount;
return this.quantity;
}
// 在庫を減らすメソッド
removeStock(amount) {
if (amount > this.quantity) {
throw new Error('在庫が不足しています');
}
this.quantity -= amount;
return this.quantity;
}
// ゲッター:割引価格を取得
get discountedPrice() {
return this.quantity >= 10 ? this.price * 0.9 : this.price;
}
// セッター:価格の検証付き設定
set price(newPrice) {
if (newPrice 0) {
throw new Error('価格は0以上である必要があります');
}
this._price = newPrice;
}
get price() {
return this._price;
}
// 商品情報を文字列で返すメソッド
getInfo() {
return `商品名: ${this.name}, 価格: ${this.price}円, 在庫: ${this.quantity}個`;
}
}
// 使用例
const laptop = new Product('ノートパソコン', 80000, 5);
console.log(laptop.getInfo()); // 商品名: ノートパソコン, 価格: 80000円, 在庫: 5個
console.log(laptop.getTotalPrice()); // 400000
laptop.addStock(7);
console.log(laptop.quantity); // 12
console.log(laptop.discountedPrice); // 72000(10個以上で10%オフ)
この実装例では、商品の基本的な情報管理と操作を行うメソッドを備えた実用的なクラスを示しています。コンストラクターで初期値を設定し、各種メソッドで商品データの操作を行い、ゲッターで計算された値を取得できるようになっています。エラーハンドリングも含めることで、実務で使える堅牢な設計となっています。
継承を使った実装例
次に、継承を活用してより複雑な構造を実現する例をご紹介します。先ほどのProductクラスを基底クラスとして、特定の商品カテゴリーに特化した「ElectronicsProduct」クラスを作成します。継承を使うことで、コードの再利用性を高めながら、特定の機能を追加・拡張できます。
// 基底クラス
class Product {
constructor(name, price, quantity) {
this.name = name;
this.price = price;
this.quantity = quantity;
}
getTotalPrice() {
return this.price * this.quantity;
}
getInfo() {
return `商品名: ${this.name}, 価格: ${this.price}円, 在庫: ${this.quantity}個`;
}
}
// 継承した電化製品クラス
class ElectronicsProduct extends Product {
constructor(name, price, quantity, warrantyPeriod, maker) {
super(name, price, quantity); // 親クラスのコンストラクターを呼び出し
this.warrantyPeriod = warrantyPeriod; // 保証期間(月数)
this.maker = maker; // メーカー名
}
// 親クラスのメソッドをオーバーライド
getInfo() {
const baseInfo = super.getInfo(); // 親クラスのメソッドを呼び出し
return `${baseInfo}, メーカー: ${this.maker}, 保証期間: ${this.warrantyPeriod}ヶ月`;
}
// 電化製品特有のメソッド
getWarrantyEndDate(purchaseDate) {
const endDate = new Date(purchaseDate);
endDate.setMonth(endDate.getMonth() + this.warrantyPeriod);
return endDate.toLocaleDateString('ja-JP');
}
// 保証期間の延長
extendWarranty(additionalMonths) {
this.warrantyPeriod += additionalMonths;
return `保証期間が${this.warrantyPeriod}ヶ月に延長されました`;
}
}
// さらに継承したスマートフォンクラス
class SmartphoneProduct extends ElectronicsProduct {
constructor(name, price, quantity, warrantyPeriod, maker, storageCapacity, osType) {
super(name, price, quantity, warrantyPeriod, maker);
this.storageCapacity = storageCapacity; // ストレージ容量(GB)
this.osType = osType; // OS種類
}
getInfo() {
const baseInfo = super.getInfo();
return `${baseInfo}, ストレージ: ${this.storageCapacity}GB, OS: ${this.osType}`;
}
// スマートフォン特有のメソッド
getStorageInfo() {
return `${this.storageCapacity}GBの容量を搭載した${this.osType}デバイスです`;
}
}
// 使用例
const phone = new SmartphoneProduct(
'スマートフォンX',
120000,
10,
24,
'TechCorp',
256,
'Android'
);
console.log(phone.getInfo());
// 商品名: スマートフォンX, 価格: 120000円, 在庫: 10個, メーカー: TechCorp, 保証期間: 24ヶ月, ストレージ: 256GB, OS: Android
console.log(phone.getTotalPrice()); // 1200000(親クラスのメソッドを継承)
const purchaseDate = new Date('2024-01-01');
console.log(phone.getWarrantyEndDate(purchaseDate)); // 2026/1/1
console.log(phone.extendWarranty(12)); // 保証期間が36ヶ月に延長されました
console.log(phone.getStorageInfo()); // 256GBの容量を搭載したAndroidデバイスです
この継承の実装例では、Product → ElectronicsProduct → SmartphoneProductという3層の継承構造を構築しています。各クラスでは親クラスの機能を継承しつつ、それぞれの特性に応じた独自のプロパティとメソッドを追加しています。superキーワードを使って親クラスのコンストラクターやメソッドを適切に呼び出すことで、コードの重複を避けながら段階的に機能を拡張しています。
これらの実装例を通じて、javascript classの基本的な使い方から継承による拡張まで、実践的なコーディング手法を理解できます。実際のプロジェクトでは、このようなクラス設計を応用することで、保守性が高く拡張しやすいコードベースを構築することが可能になります。

